『運転者』喜多川泰|運は貯めて、誰かへ渡していける
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仕事も、家族も、思い通りにいかない。「なんで自分ばかり」と感じたときに読みたい一冊が、喜多川泰さんの小説『運転者』(2019年)です。
※ここから物語の展開と結末に触れます。
行き先を知っている、不思議なタクシー
主人公の岡田修一は、完全歩合制で働く生命保険の営業マン。取った契約が相次いで解約され、収入は激減します。楽しみにしていた家族旅行は諦めることになり、中学生の娘も学校へ行けなくなっていました。
そんな修一の前に現れたのが、御任瀬卓志(おまかせ たくし)の運転するタクシー。行き先を告げていないのに、御任瀬は修一が向かうべき場所を知っています。メーターに表示された数字は運賃ではなく、修一の「運」の残高でした。
運は、すぐに使うものとは限らない
御任瀬が教えるのは、運は「いい」「悪い」で決まるものではなく、貯めて使うものだという考え方です。誰かのために動くことや、すぐに結果が出なくても続けた努力が、ずっと後に思わぬ形で返ってくる。
もう一つ印象に残るのが、上機嫌でいること。人生を変える出会いや小さなきっかけが訪れても、不機嫌なままでは見落としてしまうかもしれません。
祖父から父へ、父から自分へ
タクシーに導かれてさまざまな人や場所に出会ううち、修一は父と祖父の過去を知ります。自分が使ってきた運には、前の世代が使わずに残してくれたものもあった。目の前の不運だけを見ていた修一の受け止め方が、少しずつ変わっていきます。
何気なく譲ったもの、偶然隣り合わせた人、あの日買ったギター。一見ばらばらの出来事が仕事や家族の未来へとつながり、ギターは部屋にこもっていた娘の手に渡ります。
「運」を「転」ずる者
題名の『運転者』には、車を運転する人に加え、「運」を「転」ずる者という意味が重なります。修一を変えたのは、不思議なタクシーだけではありません。祖父から父へ、父から修一へと渡されたものを、修一自身が次へつないでいく物語でもあります。
運を自分だけで使い切るのではなく、まだ会ったことのない誰かのために今日ひとつ貯めておく。そんな生き方を考えさせられる一冊です。
元の投稿:Threadsの読書紹介

